東京2020パラリンピックで見た「力を出し切る」感動が神戸に

●酒井正人氏のインタビュー動画(08:01)

2021年9月に閉幕した東京2020パラリンピック。水泳競技では13個(金3、銀7、銅3)のメダルを獲得した。
前回のパラリンピックリオ大会で水泳競技は金メダルの獲得がならなかっただけに、選手、関係者の喜びもひとしお。この成果を日本パラ水泳連盟の競技技術委員として支えた一人が、神戸の障害者水泳チーム「神戸楽泳会」でコーチを務める酒井正人さん。小学校で教壇に立つかたわら水泳指導者として子どもたちや障がい者と向き合ってきた。
水泳と陸上。競技は違っても同じパラスポーツとして思うパラ陸上の面白さ、そして運営スタッフとして支えた東京2020パラリンピックで感じた思いを聞いた。

―酒井さんは今、日本パラ水泳連盟の競技技術委員を務められ、神戸の障害者水泳チーム「神戸楽泳会」のコーチも10年近くされています。パラ水泳との出会いはいつごろですか?

水泳のコーチは40年以上していますが、パラ水泳との出会いはそこまで古くありません。きっかけは2008年のパラリンピック北京大会です。あのとき私は北京の日本人学校で国際交流ディレクターとして働いてたんですね。そこに日本から「現地にいるならコーチと通訳も兼ねて代表チームを手伝ってくれないか」と連絡をいただいたのがきっかけです。
長く子どもたちに水泳を教えていましたが、障害者スポーツに出会ったのはそれが初めてでした。だから最初はもうどう言葉掛けをしていいのか、選手にどんな対応をしていいのか全くわかりませんでした。50歳を過ぎたころで、他のスタッフの方々は私より年齢も下ですけども、皆さんその道の先輩ですから、対応の仕方を見ながら一から手探りで進めていきました。

―子どもたちへの指導と、障がい者への指導で、特に意識することはありますか。

強く意識しなければいけないのは、一人ひとりいろんな障害があるし、同じ障害であっても程度が全然違います。そうすると水泳を教えるときの「水泳のイロハ」がそのまま使える部分と使えない部分がでてきます。
例えば片足がないのに「しっかりバタ足を打って」とは言えないわけですよね。だからそれぞれの障害の種類や、程度に応じた泳ぎを、選手と二人三脚で考えていく必要があります。それを見つけていくのは難しいんですけど、裏返せば楽しいですよね。エキサイティングです

酒井さんの指導風景

神戸の障害者水泳チーム「神戸楽泳会」で指導する酒井さん【酒井正人氏提供】

―画一的なスタイルではなくて、その人にとって100%力出せる泳ぎ方はなんなのか、とうことですね。

パラリンピックの父と呼ばれるルートヴィヒ・グットマン博士(1899~1980)は、「失ったものを数えるな。 残されたものを最大限に生かせ」という言葉を残しています。それが基本にありますよね。一方で指導者として気をつけなきゃいけないのは、いろんな指導の方法で間違ったことをして、その障害を悪化させたり、また違う障害を発生させたりそういうリスクも片方では背負っています。だからその部分も注意をしながら指導はしていかなきゃいけません。

―東京2020パラリンピックでは、酒井さんは運営側のスタッフとして大会に関わられました。振り返っていかがですか。

運営側にいますから公平な立場で、競技運営しなきゃいけないんですけど、やはり心の中では大変興奮していましたし、嬉しかったですよね。2016年、前回のリオデジャネイロのときは、水泳競技で金メダルがなかったですし。
ただそれ以上に思ったのは、やはり国は関係ないですね。日本選手の活躍はもちろん嬉しいんですよ。嬉しいんですけれども、それぞれの各国のいろんな選手が来て一生懸命泳ぐ。メダル取れる取れないに関わらず、泳ぎ切った後の顔を真っ先に見られたということは、本当に清々しかったです。感動がその場その場でもの凄くこみ上げてきましたね。

水泳自由形、視覚障害のクラスに出場した石浦朋美選手(左)と酒井さん(右)

水泳自由形、視覚障害のクラスに出場した石浦朋美選手(左)と。石浦選手は50mで7位、100mで8位、400mリレーで5位と3種目すべてで入賞を果たした。【東京パラリンピック水泳競技の会場となった東京アクアティクスセンターにて。酒井正人氏提供】

―そうした東京2020パラリンピックと同じくらい、いやそれ以上の感動が、「神戸2022世界パラ陸上競技選手権大会」として来年やってきます。水泳と陸上で競技は違いますが、どのように楽しんでほしいと思われますか。

競技が違っても、やはり全員が体に何らかの障害がある選手ですよね。だから一人一人の泳ぎ、あるいは陸上で走るんであれば、一人一人の走りに注目してほしいです。選手は自分の障害と向き合いながら、コーチと二人三脚で見つけ出してきています。その1人1人の選手がどんなパフォーマンスをどのような形で出しているのか、それぞれのオンリーワンな部分を見ていただけたらと思います。

―酒井さんは子どもたちにも教えてらっしゃいますし、障害のある方にも教えてらっしゃる。突き詰めていくと、「オンリーワン」は誰しもに当てはまることですよね

その通りです。一人ひとり違いがあるのが障がい者だけではありません。子どもたちも一人ひとり違います。例えば、ものすごく国語が苦手な子いますよね。でも頭ではその子なりにしっかり考えているんです。ただ表現の仕方がわからないから、しゃべったり書くのが苦手なだけで。
そこは一人ひとり違いがあるのが当たり前で、最終的にはみんなオンリーワンに突き詰められるわけですよ。障がい者も、子どもたちも、一人ひとりみんなオンリーワンの存在として尊重する。
私は、今も、パラ水泳の指導と並んで、神戸市内の小学校で教えながら、子どもたちの水泳教室をボランティアで開いていますが、そこを大切に指導しています。

―神戸大会まで1年を切りました。メッセージをお願いします。

神戸で開かれますのでぜひ神戸や神戸近隣の方々も含めて会場までぜひ足を運んでください。そして一人ひとりの選手のオンリーワンのパフォーマンスを見ていただけたらと思います。感動が伝わると同時に大きなエネルギーを感じる取ることができると思うんですね。ぜひ皆さん興味を持って足を運んでいただけたらと思います。

ーありがとうございました

<酒井正人氏プロフィール>
神戸大学卒業後、一般企業に入社。その後、神戸市の小学校教員を25年間務める。48歳の時に一念発起し、上海の日本人学校の国際交流ディレクターになり11年間中国に滞在。パラリンピック北京大会をきっかけパラ水泳と出会い、帰国後も、パラ水泳選手の育成・強化に携わる。現在も小学校で教壇に立つかたわら、小学生の水泳教室を開き、障がい者水泳のコーチも務める。日本パラ水泳連盟競技技術委員、障害者水泳チーム「神戸楽泳会」コーチ。

放送/ラジオ関西「PUSH!」2021年10月11日OA
インタビュアー/春名優輝

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