知る

“パラ陸上の鉄人”永尾嘉章が語る③「神戸2022世界パラ陸上に向けて」

※公開時点(2021.9.9)での情報です。

●永尾嘉章氏のインタビュー動画(05:31)
パラリンピックで日本人最多の7大会出場を果たした元選手がいる。兵庫県三木市出身で、車イス陸上の元選手・永尾嘉章氏だ。競技生活30年をトップパラアスリートとして駆け抜け「パラ陸上の鉄人」と呼ばれた永尾氏に、来年8月に迫った「神戸2022世界パラ陸上競技選手権大会」への期待を聞いた。

―現役時代、練習は1日どれぐらいされてたんですか?

永尾 日中は仕事でしたので基本的には夜の練習でした。5時半に仕事が終わって急いで準備をして、6時過ぎに競技場に着いて、そこから9時前ぐらいまで練習してましたね。日によっては筋力トレーニングでジムに行く日もありますし、新しいトレーニングも取り入れてましたね。

―やっぱり鍛えるところといえば、腕ですか?

永尾 腕力も大事ですけど、僕の場合は全身ですね。車イス陸上にもいろいろクラスがありまして、障害の重い人から軽い人まであるんですけども、僕の場合は「T54」という一番障害が軽いクラスなんですね。上半身全てが使えるクラスですので、もう使えるところの全ての筋肉は鍛えてました。腕だけではく、胸、背中、あと腹筋、それに関係する小さな筋肉もいっぱい鍛えていました。

―先ほど競技用の車イスを見せていただきました。かなり長いのと、およそ8kgで女性でも軽く持ち上げられるような重さでした。車イスも年代によって性能が変わってきたんですよね。

永尾 僕が競技を始めた頃っていうのは今のようなレーサーの形をしてなくって、普段乗っている車椅子にちょっと工夫を加えた程度のものでした。それがだんだんとスピードを追求するようになって、車輪が4つあったのが3つになったりとか、タイヤが細くなったり、車輪が大きくなったり。いまの形になったのは、この22、23年ですかね。

―車イスの性能が高まった結果、「車イスの性能で戦っているんじゃないか」という声もあります。

永尾 「人間の体の能力そのものを競い合ってるんじゃなくって、道具の性能を競い合ってるんじゃないか」っていうはよく聞きます。でも誤解しないでいただきたいのは、道具の性能が上がれば上がるほど、それを扱う選手のフィジカルとかテクニックは、さらに高いものが求められます。いいものに乗ったからといって記録が良くなるということではないんですね。高い性能の道具と、使う側の人間の能力が相まって初めて、良いパフォーマンスが出たり、良い記録が出る。ここはぜひわかっていただきたいですね。

何も特別な結果を出すために特別なことが必要ということではなくて、特別な結果を残すためにはやっぱり本当にみんなが嫌がるような地道なことをいかにやり続けられるかっていうことがポイントだと思います。

―神戸2022パラ陸上競技選手権大会まで1年となりました。永尾さん、どのような大会になってほしいか期待することはありますか?

永尾 パラリンピックも始まりましたけども、規模でいいますと、もうパラリンピックの中の陸上部門がそっくりそのまま来年神戸にやっているというイメージを持ってもらっていいと思います。つまり、陸上競技だけのパラリンピックが来年神戸で開催される。

いろんな障害の方がレーサーに乗ったり、義足をつけたり、あとガイドランナーの方と一緒に走ったりいろんな工夫をして、競技を見せてくれます。なので、こういう世界があるんだとか、こんな競技でもこういう工夫をすればみんなができるんだと、見ていただけたら嬉しいです。

あと、それ以前にやはりひとつのスポーツとして見ていただきたいです。スポーツとしてこういう世界もあるんだと認識していただくことから、健常者と障害者の垣根がそこから崩れていくんじゃないかと思うし、そうなれば、神戸という街がね、障害があってもなくても住みやすい街になるんじゃないかと、僕は期待しています。

ー現役を退いた今も、パラリンピアンとして精力的にいろいろ発信をされていますが、永尾さんの今後の抱負や夢をお聞かせください。

永尾 日本財団のパラリンピックサポートセンターの事業の一つで、「あすチャレスクール」に参加しています。これは子どもたちにいろんなパラスポーツの体験をしてもらって、障害があることがどんなことなのかとか、いろんなことに気づいてもらおうという出前事業です。日本全国回ってやってるんですけども、パラリンピックが終わった後も続くことになりました。今後もパラスポーツの素晴らしさを伝え続けていきたいと思っています。

―体験した子どもたちの反応はいかがですか?

初めに体育館に入っていたときはね、車椅子に乗っている人ってどんな人だろうって子どもたちも構えてるんですよ。でも、パラリンピックの話とか、僕が競技用の車イスに乗ってデモンストレーションを見せたりすると、子供たちの態度がすごく変わります。私を見る目がね、本当にアスリートを見る目になって、「かっこいい」って言ってくれるんですよね。ここをきっかけにして、障害があってもなかっても「頑張れることがあるって素晴らしいんだよ」ということを伝えていきたいです。

―最後にメッセージを。

とにかく来年の神戸大会を観に来てください。選手を応援してください。僕からのお願いです。僕も選手は引退しましたので応援する立場で、いろんな選手を必死になって応援したいと思います。一緒になって応援していきましょう!

ーありがとうございました。

<永尾嘉章氏プロフィール>
兵庫県三木市出身。30年間にわたって日本のパラ陸上界を引っ張ってきた「鉄人」。パラリンピックには1988年のソウル大会から2016年のリオ大会まで日本人最多の7大会連続出場。アテネ大会4×400mリレー銅メダリスト。

放送/ラジオ関西「PUSH!」2021年8月25日OA
インタビュアー/津田明日香

※掲載情報は2021年9月9日現在の情報です

VIEW ALL