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パラ陸上を描いた青春漫画「新しい足で駆け抜けろ。」

週刊ビッグコミックスピリッツで連載された漫画「新しい足で駆け抜けろ。」は、事故で片足を無くし大好きだったサッカーが出来なくなった主人公が、パラ陸上競技用の義足に出会い100mパラ陸上の義足高校生ランナーとなる話。普段の生活や、全力で走る事への怖さや挑戦を描く青春漫画で、連載が終わった今も、国内のみならず世界に読者の層が広がっている。
作者のみどりわたるさんに、執筆を通じて感じたパラ陸上の魅力や選手への思いを聞いた。

義足で駆ける高校生のイラスト

―パラ陸上を漫画の題材にしようと思ったきっかけを教えてください

東京オリンピック・パラリンピックに向けて国内が盛り上がるにつれて、日本のパラリンピック選手がメディアに登場する機会もどんどん増えていきましたよね。その時に義足のパラアスリートである山本篤選手(片大腿義足の陸上競技選手)が跳んでいる姿を見ました。義足をつけた姿がすごくかっこいいなと思って、そこからこういう主人公を描けないかなって考えたことがきっかけですね

跳躍する義足のパラアスリート

創作のきっかけとなった山本篤選手。神戸2022世界パラ陸上競技選手権大会のアンバサダーも務める。

―元々、義足などについて知識はあったんですか?

「かっこいいな」と思ったところからのスタートで私自身、義足についての知識が全くなかったです。発想してからは、直接大会に足を運んだり、義足を作っている「義肢装具士」の方にお話を伺いに行ったりと、色々と取材を重ねていきました。

―連載開始まで準備期間がかなり長かったそうですね

パラ陸上を描くと決まってから、難しいテーマだなと思う所もあり2年間はそういった勉強や取材に時間を使いました。実際にパラアスリート選手の方、5人ぐらいにご協力頂きました。実際に選手の方々と話すと、皆さん義足を身に付けるに至ったきっかけも異なりますし、義足の種類も上膝、膝下で違っていたり…それによって練習方法も違ったりするので一人一人にお話を聞いて、とても勉強になりました。

―大会を見に行き、競技を生で見た時の印象はどうでしたか?

生で見ると、皆さん大きく見えて迫力を感じました。体もしっかり鍛えていて、これはみなさんアスリートだなと。

―そのアスリートの思いを作品にするにあたって、心がけた事はありますか

パラ選手の方々は競技に向き合うまでにすごく大きな苦労を経験されていると思うんです。それでもやはり、「スポーツをしたい」「身体を動かしたい」と思うのは、そこに何か楽しいことを見いだしているからかなと。ですので作品の中でも主人公が前向きに努力できるのは、そこに楽しさがあるからだと伝わるように、生き生きとしたキャラクターを描くようには心がけました。

夏の日差しを浴びる高校生たちのイラスト

主人公・菊里を中心に、コロナ禍で揺れる高校生活も描かれる青春漫画

―取材や漫画を描くのを通して、みどりさんが感じたパラ陸上・パラスポーツの魅力は何でしたか

パラ選手たちが自分の「ウィークポイント」へ挑戦する姿が、すごく魅力的だなと思っています。日常生活では、おそらく不自由に感じることが多いと思うんですけれど、皆さん、そこを競技の中で一番の武器にできるよう鍛えている。そうした競技に挑む姿を通じて、自分ももっと頑張らないとって思わせてもらえる、すごく魅力的な姿だなって思います。

―連載を通じてたくさんの反響が寄せられたそうですね

義足を付けたパラアスリートの姿を見たことはあっても、やっぱりそこから先である「どんな練習法をしている?」というのは、なかなか普段皆さん知る機会がないと思うんです。作品を通じて、そういう練習方法や競技用義足の作り方を知っていただけたようで、「東京パラリンピックを見るのが楽しみです」というお声もいただきたました。
また義足ユーザーの方からもお手紙をいただきましたね。日常用の義足を使用している方も、競技用義足についてはなかなか知らなかったりするので、「競技用義足について知ることができた」「ちょっと興味が持てた」という、手紙が届いたときはすごく嬉しかったですね。

―連載は終了しましたが、その後、海外へも広がっています

SNSなどを通じてお声をいただいています。漫画の表紙が義足を身に付けて走っている主人公なのですが、「このキャラクターの漫画読んでみたい」や、「翻訳版はないんですか?」という問い合わせもいくつかいただきまして、2022年2月には英語版も出版されることになりました。多くの人に読んでもらえるっていうのは、新しい感想がもらえると思うのでとても楽しみですね。

英語版の漫画表紙

2022年2月に発売された英語版「新しい足で駆け抜けろ。」第一集。

クラウチングスタートを構える義足のランナーのイラスト

タイ語版も既に出版。パラ陸上やパラアスリートの魅力が、主人公・菊里のはつらつとして姿を通じ言語の壁を越えて広がっていく。

―2024年には、世界パラ陸上競技選手権大会が神戸にやってきます。東京パラリンピックのように世界からパラアスリートが集まります。どんな大会になって欲しいですか?

私の漫画を読んでくれたり、東京パラリンピックを見てパラ陸上に興味を持った方は沢山いらっしゃると思います。やっぱり会場で直接声援を送ることは選手にとって、すごくモチベーションが上がる事だと思います。大会が延期になっている状態なのは残念ですが、2024年に安心して会場に足を運んで盛り上がれるような、大会になるといいなと思っています。

ーありがとうございました。

<プロフィール>
みどりわたる
愛知県出身。「月刊!スピリッツ」(小学館)でデビュー。義足の高校生ランナーを描いたパラスポーツ漫画『新しい足で駆け抜けろ。』(ビッグコミックス)のほか、コミカライズ版『教場』(ビッグコミックス)、『うちの姉ちゃんときたら!』(メテオCOMICS)などがある『ミステリーボニータ』4月号(秋田書店、2022年3月4日発売)より『朽ちかけ龍の契約者』の連載がスタート。

放送/ラジオ関西「PUSH!」2022年3月2日OA
インタビュアー/津田明日香(ラジオ関西アナウンサー)

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