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全ての人にファッションの自由を 車いすでパリコレのランウェイへ

世界中が憧れるファッションの大舞台「パリコレ」に車いすのモデルが登場したら、障がいを取り巻く価値観が大きく変わるはず­。その確信を原動力に、「車いすでランウェイ」の夢を叶えようとしている起業家がいる。日本障がい者ファッション協会代表理事の平林景さん。2023春夏パリ・コレクションファッションウィーク期間中の27日に、パリ日本文化会館(Maison de la culture du Japon à Paris)でファッションショー「WFR (Wheelchair Fashion Row)」を開催する。開催が目前に迫る中、平林さんに話を聞いた。

【撮影:丘滉平、提供:日本障がい者ファッション協会】

ー­9月27日、いよいよパリでファッションショーですね。「車いすでランウェイ」の発想はどこから生まれたのですか。

元々、福祉におしゃれを掛け合わせて、障がいや福祉業界に対するイメージを明るく華やかにしたいという思いがあって。それをやるのが自分の使命だと思っていました。
2019年9月、友人から「車いすの人はパリコレでランウェイをしたことがないらしい」と教えてもらったんです。調べたら、義手や義足の人のランウェイのニュースはあったんですが、車いすの人がパリコレでランウェイしたという記述は出てこなかった。「世界ってまだこうなのか」と衝撃を受けました。

ー­パリは先進的なイメージでしたが。

ですよね。本当にそうなのか?と疑問に思いました。僕は「障がいがあってもおしゃれはできるよ」みたいな感覚が好きじゃないんです。逆に、「障がいがあるからこそかっこいい」「車いすだからこそ完成する」みたいなファッションがあってもいいんじゃないかと。
障がいのない人たちが「そのファッションを着たい」「それが今一番かっこいい」と感じた時に、障がいとされているものが障がいでなくなると思ったんです。

ー­障がい者のファッションに携わるようになったきっかけは。

2019年11月、一般社団法人日本障がい者ファッション協会を設立しました。
同じころ、車いすユーザーの方に「パリでファッションショーをやろうと思っています」と話したら「俺も昔はおしゃれ好きだったけど、今はもう諦めている」と言われたんです。その言葉が理解できなくて「おしゃれって自由ですよね。やったらいいじゃないですか」と返しました。

そうすると彼は、服を買いに行ってもお店の入り口に大きな段があったり、試着室に入れなかったり、お気に入りを選んでも1人で着ることができなかったり、などいろいろなことを教えてくれました。「おしゃれをしたいという自分の欲求のために誰かの手を借りるのが正直しんどい」と打ち明けられた。何とも言えない気持ちになりました。

そこで、誰でも着ることができて、かっこいい服が世の中に溢れたらいいなとの思いが膨らみ、そんな服を自分で作ってみようと決意しました。アパレル業界の経験もなく、ボタン付けさえできない僕が。­

ー険しい道だったのでは。

そうですね。でも一方で、手伝ってくれる人も出てきた。そしてどんなものが着やすくてかっこいい服なのかなかなか分からなかった時、車いすを使う方に取材しながらたどり着いたのが、巻きスカートだったんです。
ただね、男性が「明日から巻きスカートで」と言われたら、どうですか?

ー­ちょっと勇気が要りますね。

では「明日、袴で来て」と言われたらいかがですか?

ー­発想の転換ですね!

はい。つまり「スカート」というネーミングが引っ掛かるのかなと思ったんです。それで学生の皆さんと議論していたら、学生さんが「ボトモール(bottom’all)」という言葉を出してくれた。英語の「ボトム(bottom)」と「オール(all)」をつなげた造語です。障がいの有無、性別、年齢、国籍すべて関係なくみんながアクセスできる服、全員が着用できるボトムスというコンセプトがぴったりで、巻きスカートの名に採用しました。そのままブランド名にもなりました。

平林さんたちが立ち上げたブランド「ボトモール(bottom’all)」のカタログ写真。巻きスカート状で、障がいの有無、性別、年齢、国籍すべて関係なくみんながアクセスできる服を目指している。【撮影:丘滉平、提供:日本障がい者ファッション協会】

ー­27日、パリ日本文化会館で開かれるファッションショーでは新作を発表されるのですね。

この日、時代が動くと思っています。障がいがあるかないか、その他すべてにおいてボーダーレスで、全員がアクセスできる服のファッションショーはおそらく世界初。ランウェイに車いすが登場したら、賞賛ばかりでなく、批判もあってほしい。議論が巻き起こってほしい。それによって初めて時代は前に進んでいくのだと思います。

ー­その先の目標はありますか。

「ネクストユニバーサルデザイン(NextUD)コレクション」を開催したいと考えています。何かというと、これまでのユニバーサルデザインも機能面では優れていたと思いますが、多くの人にとって「使いたい」とか「欲しい」にまでは至っていなかった気がするのです。NextUDは、みんながワクワクするようなデザインです。2025年大阪万博でコレクションを催し、世界のブランドと肩を並べながら私たちの新たなファッションを発信したい。世界4大コレクションが開かれるパリ、ミラノ、ニューヨーク、ロンドン。そこに加えてもう一つ、ネクストユニバーサルデザインコレクションをやってみたい。
そして、車いすの人がショッピングに出掛けて、ぱっと手に取った服がどれも1人で簡単に着られるものだったらいいなと。そんな服が街中に溢れている世の中を作っていくのが私たちのミッションだと考えています。

ー2024年5月には神戸で世界パラ陸上が開催されます。

とても楽しみです!今回のファッションショーにはアスリートの方にもモデルとして参加していただくので、なおさらです。
次のオリンピック、パラリンピックの開催地もパリで、世界パラ陸上と同じく開催まであと2年。今回のファッションショーが最初のエキシビジョンみたいな位置づけになったら良いなと思っています。ファッションとスポーツは、掛け合わせにぴったりな業界。何らかの形で、世界パラ陸上にも関わりたいです。ぜひ呼んでいただきたいですね。

【撮影:丘滉平、提供:日本障がい者ファッション協会】

〈プロフィール〉
平林景(ひらばやし・けい)
1977年7月21日生まれ、大阪府出身。美容師、学校法人三幸学園での教職を経て、現在、兵庫県尼崎市で4つの放課後等デイサービスを経営している。2019年、一般社団法人日本障がい者ファッション協会を設立、代表理事に就任。近著に「先入観のタガをはずせ!ハンデがあるからうまくいく非常識な成功法則」(KADOKAWA)。〝福祉業界のオシャレ番長〟として、SNSや講演会などでさまざまな発信を行っている。

放送/ラジオ関西「NEWS TIME LINE」2022年9月6日OA
インタビュアー/林真一郎(ラジオ関西アナウンサー)

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