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六甲山を誰でも楽しめる山に!ユニバーサルハイキングの取り組み

神戸発の登山・アウトドア用品の総合専門店「好日山荘」(本社・神戸市)。日本初の登山用の専門品店としても知られ、全国の55を超える店舗では、実際に山が好きで登っている専門スタッフらが、安全・快適な登山やアウトドアライフのための商品、知識・ノウハウをユーザーに提供し、近年の登山ブームを支えている。
そんな好日山荘では2021年秋から、地元・神戸の六甲山を舞台に、『手話で楽しむユニバーサルハイキング』に取り組んでいる。創業98年目の“老舗”が始めた新たな取り組みについて、広報担当の松浦由香さんに聞いた。

スタジオで話す女性

好日山荘・広報担当の松浦由香さん

―好日山荘が「ユニバーサルハイキング」に取り組み始めたきっかけを教えてください

発端は、2021年に神戸市と好日山荘で結んだ連携協定です。その中に「高齢者・障がい者に向けた取り組みを行う」という項目もあり、検討していく中で、障がいをお持ちの方の登山をサポートできないか、という話になりました。
私自身も登山は好きで、話を進めていく中で手話通訳士兼登山ガイドの細井裕子さんと出会い、自社で「手話登山」を形にしたいと強く思いました。というのも、アウトドアは、障がいをお持ちの方が安心して参加出来る機会が極端に少ないんですね。「アウトドアや登山をしたいけど、出来ない」と諦めている方の助けになりたいという思いが、まずありました。

―手話で楽しむ、ということで、通常のハイキングと違いますか?

2021年秋に開催した第一回目は6名の参加者のうち、3名はろう者の方で、他に手話の勉強をしている方、手話に興味を持たれている方にも参加いただきました。通常のツアーは定員がだいたい15人くらいなのですが、このツアーに関しては定員を半分程度にしています。その分、一人ひとりのお客様に楽しんで貰えていると思います。

通常のハイキングとは、なんら変わりはありません。唯一違うのは、口で話しているのが手話でのコミュニケーションになることだけですね。もちろん声を使えないということで、とっさの案内がしにくい場面もあります。ですので、事前にガイドさんとスタッフがコースをしっかりと下見をしています。ちょっと危ない所などをしっかりチェックしたり、休憩する場所やお手洗いの場所も含め下見し、安心してご参加いただけるようにしています。

その甲斐もあって、参加された聴覚障がい者の方からは「普段から登山に参加しているが、普通の登山イベントは道中のガイド(植物や地層の説明)等が分からない。しかしこのイベントでは手話ができる人たちや、参加者も手話で話すのでいつもより楽しめた」と感想もいただいて、私も嬉しかったです。

山登りをの楽しむ人たち

2021年11月に実施された「KOBE Rail &Trail 手話で楽しむ六甲山ハイキング」での記念撮影。参加者らは美しいダムや貯水池、眼下に神戸空港を堪能できる君影ロックガーデンを楽しんだ。

―ツアーのきっかけとなった、細井裕子さんもガイドとして携わっておられますね。

細井さんは奈良県在住の公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドであるとともに、手話通訳士の資格も持っています。アウトドア手話企画-等高線-の代表として、聴覚障害をお持ちの方を対象にハイキングやボルダリングの企画を運営されています。

―経験豊富で頼もしいですね。その細井さんとの出会い、実際に一緒にハイキングを歩いて気づかされたことはありますか?

細井ガイドと知り合ったのも連携協定のご縁でした。神戸市との事業連携協定をお知りになられた岡山大学のアウトドアバリアフリーを研究されている池谷潤教授(のちに岡山大学との包括連携に発展するきっかけとなりました)と知り合い、細井ガイドを紹介して頂きました。

第一回目のツアーは私も参加させて頂いたのですが、表情をしっかり付けながら端的・明確にお話しされていました。また手話だけではなく、歴史や難読漢字の解説などは視覚でも理解が深められるようスケッチブックを用いながら解説して下さったので、ろう者の方だけではなく、参加者全員が分かりやすいお話を聞くことが出来ました。

そういった細やかな気配りもあり、また何度か一緒に歩いたことがあるような気持になる、終始和やかな雰囲気のツアーでした。勿論ガイドさんとして登山のテクニックなども都度アドバイス頂き、ビギナーの方にも参加しやすい内容だなと感じました。

登山ウェアでたたずむ女性

ツアーで登山ガイドを務める細井裕子さん。アウトドア手話企画-等高線-代表で、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド。大学時代にワンダーフォーゲル部で登山を始めると同時に手話サークルで手話を習い、2002年に手話通訳士資格を取得。2018年に登山ガイド資格を取得。

―松浦さん自身も登山がお好きなのだとか。六甲山の魅力はどこにありますか

本当に一言で伝えられないくらいあるんですけど、2つポイントがあります。

1つ目は、六甲山は駅から登山口までがすごく近いので、アクセスがしやすいことです。2つ目は、六甲山は200とか300ぐらいコースがあると言われており、一人ひとりの体力や時間にあわせてコースを選べるというのも魅力ですね。それこそ、障がいをお持ちの方も、健常者と同じように楽しめるコースを選ぶことができると思います。

ツアーでは、コロナ禍ですので登山が久し振りだったり、ちょっと体力落ちて自信がない、という方にも楽しんでいただけるよう、参加者のペースに合わせてゆっくりのんびり歩くことを心掛けたいと思います。

―六甲山が、障がい者も楽しめる山としてにぎわってほしいですね。

ユニバーサルハイキングを今後、定期的に行っていきたいと思いますし、今は聴覚障がい者向けという形ですが、将来的には、車いすの方や義足の方等、他の障がいを持っている方にも参加してもらえるようにしたいですね。

私も仕事をする中で、車椅子の方とお話させていただく機会が以前ありまして、お話を聞いていますとすごくアクティブな方が多くて、「アウトドアをやっぱりもっとやりたいよ」というお声をいただきました。
SDGsの考えが広がるいま、全ての人に健康と福祉をといった目標もあります。好日山荘としては、障がいのある方々にもアウトドアにもっと参加していただけるような機会を提供していきたいと思います。

―2024年、世界パラ陸上競技選手権大会が神戸で開催されます。大会に向けてメッセージをお願いします。

私自身、登山もスポーツも大好きなので、まずは開催を楽しみにしています。そして私たちの活動や、大会を通して、 “神戸がやりたいことにチャレンジできる街” になっていけばと思います。

-ありがとうございました。

<好日山荘・プロフィール>
1924年、日本初の登山用品専門店として誕生し、創業から98年目を迎える日本で最も歴史のある登山・クライミング・アウトドア総合専門店。登山ガイドが同行する登山教室や、女性目線で山の楽しみを発信する“おとな女子登山部”といった活動も行っているほか、スポーツクライミングを日本で普及・発展させるためクライミングジム「グラビティリサーチ」も展開。

放送/ラジオ関西「谷五郎の笑って暮らそう」2022年3月15日OA
インタビュアー/谷五郎、田名部真理

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