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“失明しても失望させない” 神戸発の「isee!運動」 視覚障がい者の輝く姿を発信

●和田浩一氏のインタビュー動画(6:02)
 

パソコンやスマートフォンなどデジタル機器の進化で今、視覚障がい者の働き方やライフスタイルが大きく広がっています。その中で、神戸アイセンター・ビジョンパークを拠点に活動する「公益社団法人NEXT VISION」では、視覚障がい者・ロービジョンの方々が社会で活躍する姿を発信する「isee!運動」に取り組んでいます。「失明しても失望させない」。神戸発のこの新たな試みについて「公益社団法人NEXT VISION」の和田浩一さんにお話をうかがいました。

―「公益社団法人 NEXT VISION」について教えてください

ポートアイランドにある、神戸アイセンターのエントランス(2階)にある「ビジョンパーク」を運営している団体です。神戸アイセンターは目に関する最先端の研究、そして治療、さらには見えない・見えにくい方が社会復帰するためのリハビリテーション、ロービジョンケア、これらを一気通貫・ワンストップで対応する施設です。

建物の写真

神戸アイセンター(神戸市中央区)。最先端の眼科医療の研究・治療とともに、リハビリや、見えない・見えにくい人が社会で活躍できるための様々な取り組みを行う、目のワンストップセンター。

 

―iPS細胞を使って目の難病を治療する世界で初めての臨床研究が行われていることでも有名ですね。

はい。私たち「NEXT VISION」は、そのアイセンターにあるビジョンパークを拠点に、視覚障がい者への支援、ロービジョンケアの情報を発信しています。ビジョンパークでは白杖やデジタル機器など視覚障がい者をサポートする器具の体験、相談を受け付けています。

また意外なものではクライミングを楽しめるウォール(壁)もあります。「みちびクライミング」といいますが、光るホールドで進むべきコースを導いてくれるものです。

「視力を失ってもできること」を知ってもらうことで、精神的な支援、リハビリや就労支援につなげています。

ビジョンパークの様子

神戸アイセンターのエントランスにあるビジョンパーク

クライミングを楽しむ人たち

ビジョンパークに設けられた「みちびクライミング」。光るホールドで進むべきコースを導くことで、ロービジョン者も晴眼者も一緒なって楽しめる。※新型コロナウイルス感染防止のため2022年2月現在は休止中

 

―和田さんご自身も視覚障がい者とのことですが、詳しくお聞かせいただけますか。

私は後天性のもので、昔は見えていましたが今はもう全く見えないですね。中学2年の時に病気がわかって、徐々に見えなくなっていきました。30歳ぐらいで文字が読めなくりました。

―どのように見えづらくなっていったのでしょうか。

当初は、視界の中心と周辺部分は見えるけどもその間の部分が見えない状態でした。その後、年を取るとともに見えない部分が大きくなって、残念ながら、いまはまったく見えていません。

といっても、これはかつて見えていたから「残念」と思うだけですけどね。目が見えないといっても目の前が真っ暗ではありません。見えない=真っ暗というのは、目が見えているから思うことで、私もそう思っていました。実際は光は感じなくても目を開ければ明るく感じますし、物は見えなくても未来は見えていますよ(笑)。

―視覚障がい者と一言で言っても、目の見え方・見づらさは多様なんですね。

なかなか理解されないんですよね。「視覚障がい者=全く見えない」という社会の側の思い込みが強いと感じます。視覚障がい者の多くは、視野が狭いとか、視界がぼやけて見える、視力が弱い、色の違いがちょっと判りづらい、暗いと見えないといった方々です。まったく見えないわけではないんです。そういった人を「ロービジョン」と言います。

リモートインタビューに答える男性

リモートインタビューに答える和田浩一さん。後ろの油絵は、18歳のころ、視野が狭まり、色もわかりにくい中で描いた。

 

―和田さんは「ビジョンパーク」での活動と並行して、デジタル庁の職員として働いているとお聞きしました。

デジタル庁はいま「誰1人取り残さない、人に優しいデジタル社会をつくる」ということを掲げています。私は、視覚障がい者も含めた多くの障がい者が使いやすい・アクセスしやすいデジタル環境をつくるということで、Web関係のアクセシビリティの点検をしたり、ガイドラインの作成に携わっています。

―こうしたパソコンやスマートホンといったデジタル機器の進化がいま、視覚障がい者の可能性を拡げているんですよね?

これは広がりました!もう革命とも言えますね。今までの「文字が読めない」というのは「紙に書かれたものが読めない」ということでした。それがネット上のホームページの文字はもちろん、紙に書かれた文字も今やAIがデジタル化して文字に変換してくれます。デジタル化されれば、簡単に拡大できますし、音声で読み上げさせることもできます。

―「NEXT VISION」では、そういった視覚障がい者やロービジョンの皆さんの新しい働き方・ライフスタイルを発信されていますね。

見えないことへの理解を広げるうえで一番問題なのは就労です。先ほども言った「視覚障がい者=まったく見えない」というイメージが根強く、実は働けるかもしれないのに仕事に就くことができない。周囲も本人も諦めてしまうことが多い。そこで、実際に働いて活躍している視覚障がい者の姿や働くための工夫の事例や、働き方のアイディアを募集するコンテストとして「isee! “Working Awards”」を毎年開いています。

―視覚障害を持ちながらこんな仕事を頑張ってやってますよっていう方がいっぱい出てくるわけですね

今年で6回目となりますが、過去には、中途失明で現場に出られなくなった消防士が司令センターで活躍している事例や、同じく中途失明の漫画家がデジタル機器を使って創作活動を続け、ロービジョンをテーマにした作品をつくった、といった事例がありました。目が見えないと仕事ができないと多分思われてると思うんですけどそんな事ありません。困難があっても、少しの工夫・まわりの協力があれば自信をもって働けるんです。

オンラインイベントに集まる人たち

2022年2月20日に開かれた「isee! Working Awards 2022 受賞者発表・授賞式」の様子。

 

―視覚障がい者だけではなく、目が見える人・晴眼者にとっても勇気づけられるお話ですね。そんな和田さんたちが活動し、アイセンターやビジョンパークがある神戸に「世界パラ陸上競技選手権大会」がやってきます。

とても期待してます。私もスポーツ大好きです。この前もアイススケートをしてきたところです

―アイススケートですか??

スケートは見えないとできないと思われてるかもしれませんがそんなことありません。コロナで他人とのソーシャルディスタンスをとる必要がでてきたときに、視覚障がい者向けのアプリとして目の前に人がいるか教えてくれるアプリが開発されました。これをスマートフォンに入れるなどして、前に人がいるかどうかや距離を音と音声で教えてもらいながら滑りました。

―そんなこともできるんですか。驚きました。

日常生活であれ競技であれ、自分の限界に挑戦していくというのは、とても凄い事です。大会を通して「こんなことも出来る!」という事と元気を伝えてほしいです。

「目が見えなくなったらいろんなことができなくなる」と思いますよね?でもこれを“できなくなる”のではなく、“できる可能性の伸びしろが増えた”とみると大きく変わってきます。コロナでもいろんな困難が生まれていますが、困難を解決する喜び、困難に立ち向かう力が湧いてきますよね。“失明しても失望させない”。「NEXT VISION」では、ロービジョンケアを神戸から全国に発信していきたいと思います。

―大変元気がでるお話でした。ありがとうございました。

<プロフィール>
和田浩一(わだ・こういち)
愛媛県生まれ。中途視覚障害で、30歳のころに文字を読むのが困難に。35年間の盲学校での教員生活を経て、2018年に「NEXT VISION」の取り組みを知り活動に参加。神戸アイセンター・ビジョンパークでは情報マスターとしてロービジョンケアの普及に取り組む。2019年から視覚障害リハビリテーション協会の会長も務める。

放送/ラジオ関西「羽川英樹ハッスル!」2022年2月10日OA
インタビュアー/羽川英樹・大森くみこ

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